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カシノナガキクイムシの飛翔行動と寄主樹木への反応
ナラ枯れを引き起こす病原菌を媒介するカシノナガキクイムシは、新たな寄主木を探索する際に飛翔します。その飛翔距離は被害の拡大速度から推定はされているものの、今のところ実測例はありません。また、どれぐらいの高さを飛んでいるのかについても、研究例が少なく詳細は不明です。既存の様々な方法を改良しながら組み合わせて利用することで、カシノナガキクイムシの飛翔距離と生態を明らかにし、未被害林におけるナラ枯れ防除対策に新たな方針を打ち立てることが本研究の目的です。八丁平の二次林で脱出虫を蛍光塗料で標識し、その後林内で発生した被害木で塗料を検出することにより、カシノナガキクイムシの飛翔距離を推定しました。より正確な標識再捕獲と室内における飛翔距離推定、野外における飛翔高度推定を計画中です。
ブナ科樹木密度がナラ枯れの発生と収束に及ぼす影響
カシノナガキクイムシが本来は衰弱木や枯死木を利用する二次性昆虫であることを考えると、林内で健全木を見つけ出す能力は低いのかもしれません。被害収束時の寄主木の密度からカシノナガキクイムシが寄主を検出できる限界の密度が推定できれば、ナラ枯れが発生しにくい林分の維持管理に役立てることができます。ブナ科樹木の密度が異なる天然林と二次林で調査を行い、ブナ科樹木の密度がナラ枯れ被害の発生と収束に及ぼす影響を明らかにすることが本研究の目的です。
長期動態からみた冷温帯林におけるブナ科樹木の衰退
(成果公開ページにリンクしています)
世界的にブナ科樹木の衰退が報告される中、日本でも分布境界域におけるブナの大径木枯死や、被害が沈静化しないミズナラの集団枯死(ナラ枯れ)、成熟した二次林におけるクリの衰退が見受けられます。これらの現象は十把一絡げに「ブナ科樹木の衰退」と捉えられるものではなく、各樹種の衰退にはそれぞれに複数の要因が存在すると考えられます。冷温帯の天然林と二次林に20〜30年前に設定され今も計測が継続している毎木調査プロットのデータを活用し、ブナ・ミズナラ・クリの衰退状況を把握した上で、個体の成熟や土壌流出など衰退の要因を探索するのが本研究の目的です。
カシノナガキクイムシの寄主木及び穿孔部位選択様式
(成果公開ページにリンクしています)
ブナ科樹木の集団枯死被害(ナラ枯れ)を引き起こすカシノナガキクイムシは、羽化脱出してから新しい寄主木に穿孔するまでに、多様な森林において寄主木集団を検出し、繁殖に好適な寄主木を選択し、繁殖成功を見込める最適な穿孔部位を決定しなければなりません。どの段階においても、彼らは自らの適応度を上げるべく無駄のない行動をとっていると考えられます。その行動様式を、被害木の解析から間接的に、行動観察によって直接的に明らかにするのが本研究の目的です。
カシノナガキクイムシの繁殖成功度と性比のばらつき
ミズナラやコナラなどブナ科の樹木を寄主として利用するカシノナガキクイムシの繁殖成功度には大きなばらつきが見られます。京都に植栽されていた外国産のブナ科樹種、
Quercus laurifolia
と
Q. robur
がカシノナガキクイムシの攻撃を受けて枯れたので、これらの樹種における繁殖成功度をリスクアセスメントを兼ねて調査しました。
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穿入孔から脱出する次世代虫数は、
Q. laurifolia
の場合 0〜41 頭 (
Yamasaki et al., 2012
)、
Q. robur
の場合は 0〜947 頭でした。また、ミズナラなど日本に自生する樹種を利用した場合、脱出虫の性比は少し雄に偏ることが知られていますが、
Q. laurifolia
の場合は性比が有意に雄に偏っていました。特に脱出開始直後は雄の割合が多く、時間の経過に従い雌の割合が増えていく傾向が両樹種で見られました。
被害拡大様式から探るカシノナガキクイムシの選好性
カシノナガキクイムシが生息する森林は、彼等が利用できる樹種だけで構成されているわけではありません。二次林では寄主として利用できるブナ科樹木が優占していることが多いものの、天然林ではそうとは限りません。多様な森林でどのように寄主を探索しているのか、森林内で被害を受けている個体の特性を解析することで間接的に明らかにしようと試みました。
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スギとブナが優占する天然林で被害木を調査したところ、集中分布する太い木がカシノナガキクイムシの攻撃を受けやすいことが分かりました (
Yamasaki and Sakimoto, 2009
)。また、被害木の分布の経年変化を追った研究では、前年被害木の直近は被害発生確率が低く、前年被害木から 200m ぐらい離れたところで被害発生確率のピークがみられることも明らかになりました。
カシノナガキクイムシの寄主木への飛来と穿孔の様式
複数のブナ科樹木を寄主として利用するカシノナガキクイムシですが、野外における被害程度は樹種によって異なります。また、太い木の方が被害を受けやすく、一度穿孔されたものの生き残った木は翌年以降被害を受けにくいことが先行研究で示されていましたが、カシノナガキクイムシがどの時点でこのような選り好みをしているのかは明らかにされていませんでした。
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ミズナラとウラジロガシを比較したところ、飛来虫が穿孔する割合が異なっているので樹種間で穿孔密度が差がみられることが分かりました (
Yamasaki et al., 2007
)。また、ミズナラに飛来穿孔するカシノナガキクイムシを調査したところ、細い木には飛来すらしないこと、穿孔履歴がある木に飛来した場合は穿孔せずに飛び去る確率が高いことが明らかになりました (
Yamasaki and Futai, 2008
)。ミズナラ、コナラ、クリの3樹種でカシノナガキクイムシの飛来穿孔を比較した研究では、樹種選択は飛来後穿孔する前の段階で行われていることを明らかにしました (
Yamasaki and Futai, 2012
)。
樹冠内における被食レベルの時空間的変異とその要因
林冠を形成するような高木の場合、地上高や光環境、葉の化学的性質に樹冠内でも大きな変異があります。光環境や葉の性質は時間的にも変化するので、植食性昆虫は時空間的に変化する様々な要因に影響されていると考えられます。
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開葉直後からブナの葉上に観察される虫えい、ブナハマゲタマフシの形成頻度をブナ樹冠内で詳細に調査したところ、虫えい形成昆虫の羽化が早い時期の開葉に時間的に一致し、その結果虫えいの不均一な樹冠内分布が生じていることが示唆されました。また、食葉性昆虫による被食面積の変化をブナ高木樹冠内の 24 葉群で2年間継続調査したところ、開葉後1ヶ月以内においては葉位の異なる葉の間で被食面積に差が認められ、葉位の増加に伴う被食面積の増加が観察されました。葉の成熟が完了した開葉1ヶ月後以降においては、光環境の異なる葉群間で被食面積に差が認められ、明るい環境下の葉ほど被食面積が小さくなる傾向がありました。樹冠内では光環境の変化に伴い、比葉重量や縮合型タンニン含有率などの葉の性質の変化が認められ、これらの性質の樹冠内変異が被食面積の変異を引き起こしている可能性が示唆されました (
Yamasaki and Kikuzawa, 2003
)。
山崎 理正, E-mail:
riseiyam@gmail.com