- 冷温帯林におけるブナ科樹木の衰退とその要因
- 研究種目
- 科学研究費補助金 基盤研究(C)
- 研究期間
- 平成24年度 〜 平成27年度
- 課題番号
- 24580218
- 研究代表者
- 安藤 信(京都大学フィールド科学教育研究センター)
- 研究分担者
- 高柳 敦(京都大学農学研究科)
金子 隆之(京都大学農学研究科)
山崎 理正(京都大学農学研究科)
- 研究成果概要
- 近年、ブナ科の特にコナラ属の樹木について、世界各地から衰退や集団枯死が報告されています。寿命を迎えたブナ科樹木が何らかのストレスにさらされ、最終的には菌類や食葉性昆虫、キクイムシの攻撃を受けて枯死に至るなど、衰退には複数の要因が関与していると考えられています。集団枯死は衰退よりも劇症型で、これには菌類とそれを運搬するキクイムシが関与していますが、日本各地で問題となっているナラ枯れもこれにあたります。日本では現在ナラ枯れが猛威をふるいミズナラの衰退が注目されていますが、衰退しつつあるブナ科樹木はミズナラだけではありません。冷温帯の天然林と二次林に20〜30年前に設定され今も計測が継続している毎木調査プロットのデータ解析から、ブナとクリにも衰退の兆しが見えてきました。本研究では、冷温帯林におけるブナ・ミズナラ・クリの衰退過程とその要因を明らかにすることを目的としました。
ブナの衰退については、スギとブナが優占する冷温帯林において1992年から5年毎に20年間継続した毎木調査のデータを解析しました。その結果、ブナでは大径木が枯死しやすい状況が20年間続いていること、新規加入はあるものの胸高断面積合計は減少し続けておりブナは衰退過程にあることが示唆されました。衰退の要因を解析するためプロットの一部で立木と枯死幹の位置を測量し、個体レベルで地形要素と立木密度を計算したところ、胸高直径が太くなり周辺の立木密度が高くなるほどブナの枯死確率が上がっていることが明らかとなりました。
ミズナラの集団枯死については、上記プロットの10年間のナラ枯れ被害拡大様式を解析し、カシノナガキクイムシの移動分散様式を推定しました。前年の被害木からのカシノナガキクイムシの分散カーネルが対数正規分布に従うと仮定し、平均と標準偏差を変化させることでピーク位置とばらつき具合の異なる100種類の仮想分散カーネルを準備しました。前年被害木からの距離に応じてカシノナガキクイムシの移動分散確率を計算し、どのような分散カーネルを仮定した場合に被害発生確率を予測するモデルのあてはまりがよくなるのかを探索しました。その結果、前年の被害木から300mにピークがあり、比較的ばらつき具合の小さい分散カーネルを仮定した場合が最もモデルのあてはまりがよくなり、直近には飛ばないカシノナガキクイムシの移動分散様式が示唆されました。
研究成果について、詳しくは ブナの衰退、ミズナラの衰退、クリの衰退 の各頁を参照して下さい。