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日時:2009年3月4日 16:00-
場所:京都大学農学部総合館S128室



花上に存在する手がかりを用いたハナバチ類の採餌行動
―花資源の有無を判断する―
横井智之氏 (岡山大学大学院環境学研究科昆虫生態学研究室)
 多くの生物にとって,子のための十分な餌資源を集めることは,自らの適応度を上げ るうえでも重要となる.花資源を利用する昆虫類も,花蜜や花粉を効率よく採餌する ための行動をとろうとする.なぜなら,すでに採餌された花への訪花は獲得できる報 酬量が低く,採餌時間のロスを生じるために,なるべく資源が多く残っている花を訪 れるのが望ましいためである.しかしながら,資源の分布はパッチ状であり,また花 の資源量は同じ植物体や植物間でもばらつきを生じ,予測困難な場合が多い.そのた めハナバチ類では,花の資源量を評価するために幾つかの手がかり(cue)を利用す る.採餌決定を行う際には,花自体によって示される場合と訪花者によって花上に残 される場合の両方を,状況に応じて判断し,利用していると考えられる.これらの cueを利用する採餌行動に関しては社会性ハナバチ種で多くの研究があるが,ハナバ チ類全体で包括的に取り扱った研究はない.本講演では,“匂いのマーク”と“他個 体の存在”の2つのcueを利用した採餌行動について,社会性・単独性の両タイプに着 目して紹介し,ハナバチ類全体でこれらのcueを用いた採餌行動が進化した背景につ いて考察する.
1)“匂いのマーク”を用いた採餌行動
 先に採餌した個体により花上に残された化学物質を,匂いのマーク (Scent mark) として認識して資源評価に利用する行動に関しては,ミツバチやマルハナバチなどの 社会性種,もしくはミツバチ科のみの特性として推測されてきた.本講演では,系統 上の分化の違いにより匂いのマーク利用の能力に違いが見られるかを検証するため, 4科に属する単独性ハナバチ種と1科の社会性ハナバチ種に着目した.実験結果から, 匂いのマークを利用する行動と,社会性の発達やハナバチ類の系統,利用する花の形 態といった要因との関係について考察する.
2)“他個体の存在”を用いた採餌行動
 複数のハナバチ種間で利用する花資源に重複が見られ,さらに訪花個体数が増加する 場合であれば,植物体上の同じ花上に2個体以上が同時訪花するような状況が起こり うる.マルハナバチのような社会性ハナバチ種のみが訪花する条件下では,社会性種 が花上の他個体の存在をどのような資源情報として利用しているかについて研究がな されてきた.しかし,複数の社会性・単独性種が混在して訪花する資源上で,花上の 個体に対して両タイプのハナバチ種がどのような訪花行動を示すかについては明らか にされていなかった.本講演では,クサイチゴに訪花した2種の単独性ハナバチとセ イヨウミツバチを用いた実験結果から,両タイプのハナバチ種における,他個体の存 在という情報の利用について考察する.