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日時:2020年11月27日 (金) 15:00-16:30
場所:オンライン開催


クロテンフユシャクのゲノム解析に基づく異時的種分化プロセスへのアプローチ
山本哲史 助教授(京都大学理学研究科 動物生態学研究室)
ごく近縁な種でも異なる季節に花を咲かる植物どうしの遺伝的交流は起こりにくい。同様に、たとえ姉妹種であったとしても繁殖季節の異なる昆虫は遺伝的交流が生じない。このような時間的生殖隔離(あるいは季節的生殖隔離と呼ぶこともできる)は、さまざまな分類群でみられる普遍的な隔離機構の一つである。時間的生殖隔離は普遍的にみられ、効率よく遺伝子流動を低下させる隔離機構である。1960年代には、異所的種分化のアナロジーとして時間的生殖隔離によって開始される種分化は「異時的種分化」と呼ばれ、議論されるようになったが、ながらく種分化プロセスを開始させる最初の隔離機構にはなるという証拠は得られてこなかった。近年、「異時的種分化かも?」と考えられる例が少数報告されているが、依然として異時的種分化がどのように起こるのかを実証的に示した研究はない。
 発表者はクロテンフユシャクという冬季に繁殖する蛾を材料に、異時的種分化プロセスの解明に挑んでいる。クロテンフユシャクは、比較的温暖な地域(それほど厳冬的な環境にならない)では真冬に繁殖するが、高緯度地域や高標高地域のように比較的寒冷な地域では、真冬には繁殖せず、初冬に繁殖するタイプと晩冬に繁殖するタイプに分かれる。このような繁殖時期の分かれない地域(=種分化前の地域)と繁殖時期がすでに分化している地域(=種分化開始後の地域)が日本国内に混在しているという点で、クロテンフユシャクは異時的種分化プロセスの解明に好適な材料であると言える。
 本講演では、同所的な初冬型タイプと晩冬型タイプの生殖隔離の証拠や、系統地理解析に基づく進化史の解明、そしてゲノム解析から見えてきた異時的種分化のプロセスについてお話する。