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日時:2009年3月4日 16:00-
場所:京都大学農学部総合館S128室



生き物の分布や多様性を左右する地形と人為的攪乱
−屋久島照葉樹林と長野県秋山地域での研究例
辻野 亮 氏(総合地球環境学研究所)
生き物の分布や多様性はその生き物に対する攪乱や種間競争,被 食圧,環境条件傾度などへの反応によって決定され,その中でも 局地的な地形条件は生態的特化や種多様性の主因と考えられる. それゆえ地形特異的な植生分化のメカニズムが研究されてきた が,十分明らかにされたとはいえなかった.たとえば地形と樹木 の関係では,地形と成木密度との静的関係のみが注目されてき た.しかし,若い段階での環境条件への応答は成木段階とは異な る.
そこで本発表では生活史全体を視野に入れて,地形特異的な 樹木の分布を対象にして鹿児島県屋久島の照葉樹林において行っ た一連の研究を発表する.特に,
1)種子散布から成木ステージまで地形に注目した樹木の分布パタンの違い,
2)胸高直径5cm以上の樹木の生残・生長と地形との関係,
3)種子散布距離や種子散布された場所の光環境と地形に着目したヤクシマザルによる種子 散布,
4)地形や土壌表面の環境条件,ヤクシカの影響に着目した 樹木実生の生残動態,
5)樹木と菌根菌の共生関係に着目した菌類子実体の発生地形特性,
以上5点に焦点をあてた.
ところで,伝統的な植物生態学者は原生林を対象に森林の研究を してきた.人為的な攪乱のない「原生な森林生態系」を研究対象 とすることで森林の維持更新や多種共存機構の本質を明らかにし ようと努力してきた.しかしながら,人間が生活していく上で森 林生態系からの資源収奪は回避できないことから,人為的撹乱の ない「原生な森林生態系」というものは近年少なくなってきた. さらに人為的攪乱のある森林においては自然のプロセスよりも人 為的な攪乱の履歴が樹木の分布や多様性を大きく左右することが 予想される.一方で人間にとっては木材を得るためには材にする のに適した樹木の生育する森林が必要だし,山菜や薬草を入手す るためには特定タイプの森林が必要となる.このような状況か ら,人間の活動を考慮した形での森林生態系を探求することは重 要である.長野県下水内郡に位置する秋山地域は,焼畑耕作や山 菜採集,狩猟などによって近年まで森林に依存した生活がされて いたことから,秋山地域の生き物の多様性が地形や標高,人為的 森林利用の有無などによってどのような影響を受けるのかを調査 した.
本発表では,1)植物の分布と植物種多様性に及ぼす物理 的環境条件と人為的要因の影響,2)赤外線センサーカメラに よって明らかにした哺乳類相と森林タイプや人為的森林攪乱の関 係,の2点を森林に依拠した秋山地域の人々の生活を紹介しなが ら考察する.