月に一度、第一線で活躍されている研究者をお招きしてスペシャルセミナーを開催しています。
関心のある方は是非ご参加ください。セミナー終了後には簡単な懇親会も行っております。
日時:2008年11月26日 13:30-
場所:京都大学農学部総合館W306室
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津田吉晃氏 (森林総合研究所・森林遺伝研究領域樹木遺伝研究室) |
昨今のデータの蓄積により,森林樹木の"集団内の遺伝的多様性は高く,集団間の遺伝的変異は低い。
系統地理学的構造は最終氷期最盛期以降の分布再拡大で形成されたといったこれまでのいわゆる“定説”
を支持しない知見も増えつつある。本発表では,これら最近の知見について特に"これまでの研究とどこが違うか"
に着目して具体例を挙げて紹介する。データ解析についても一般的な方法から,地球統計学,
GISなどを用いたアプローチなどについても紹介する。広く浅い総説になるが,最近の関連分野を概観する。
加えて,自分のウダイカンバおよびヤマザクラのEST-SSRを用いた系統地理学的構造についても紹介する。
ここでは,非中立な遺伝子座の検出およびその遺伝子座の対立遺伝子の地理的分布パターンなどについても触れる。
キーワード:遺伝的多様性,系統地理学,集団構造,遡上合同,パラダイムシフト, ウダイカンバ,ヤマザクラ,EST-SSR |
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吉田貴徳氏(九州大学大学院 システム生命科学府システム生命科学専攻) |
樹木は地上の生態系においては重要な構成要素であり,世代時間が長く巨大である。
集団に対する人為的影響が少ない等の興味深い性質を持つ研究対象であると言える。
では,個々の樹木の遺伝的多様性のパターンにはどのような特徴があり,
個別の遺伝子にはどんな進化的力が作用しているのだろうか。私たちの研究している樹木の一つ,
ミカン科サンショウ属のカラスザンショウ(Zanthoxylum ailanthoides)は,
典型的な撹乱依存種として知られている。本研究では,
SSRマーカーを用いてカラスザンショウがどのような集団構造を持っているのかを解析した。
さらに,より特定の遺伝子座において塩基配列の解析を行ない,各種の中立性の検定を行なった。
これらの解析より,本種の集団間分化は比較的大きく,
地理的距離と遺伝的分化の間には有意な正の相関があることが分かった。また興味深いことに,
解析された遺伝子座には中立から大きく逸脱しているものが存在した。この遺伝子は,
デンプン合成経路に関与すると考えられ,本種の特徴である埋土種子に関連した自然淘汰が作用した可能性がある。
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