日時:2012年1月25日 16:00-
場所:京都大学農学部総合館W420号室
菌根菌を利用した森林再生と農業生態系の設計をめざして |
東樹宏和氏 (次世代研究者育成センター 白眉プロジェクト 特定助教) |
菌根共生は、陸上生態系の要である。ほとんどの植物は、菌根菌からリンや窒素といった養分を受け取っており、菌根菌なしでは野
外において正常に生育できない。これに対し、植物は純光合成生産物の2〜4割を報酬として菌根菌へ渡していると言われ、その総量を炭
素ベースで推定すると、人為的に放出される温室効果ガスを大幅に上回る。それゆえ、資源(肥料や水)を効率的に利用する農業生態系の
設計や、地球レベルにおける炭素循環過程の正確な把握のために、植物と菌根菌の相互作用を、群集レベル・生態系レベルで理解すること
が必要となる。
発表者らは、群集生態学、菌類学、バイオインフォマティクス、生理生態学をまたぐ分野横断プロジェクトを立ち上げ、地下の植物-真菌 相互作用を大規模に解明する手法を確立した。次世代シーケンサーによる、真菌DNAの大量解析を、最先端の生態学の理論と融合することで 、植物と真菌が地下で繰り広げる相互作用の全体像を把握し、その動態を追跡することができる。 京都府京都市の吉田山で行った調査から、28種の植物が、約700種の真菌と相互作用している構造が明らかになった。このネットワークを 詳しく解析することで、どの植物種とどの植物種が菌根菌を介して間接的に相互作用しているのか、推定できる。また、特定の植物種や特 定の真菌系統が絶滅した際の影響を、群集の頑健性の観点から予測することができる。こうした知見は、「どの植物種どうしを一緒に植え ると、生長を促進し合うのか?」、「どの植物が絶滅すると、生態系サービスが劣化するのか?」といった問いに対して、重要な示唆を与 える。現在、冷温帯から熱帯まで調査地を拡大しており、様々な生態系において植物と菌根菌が繰り広げる相互作用の動態を解明できるも のと期待される。 本発表では、昆虫と植物の共進化、食植生昆虫の細胞内共生細菌の研究を経て菌根共生の研究にたどり着いた発表者自身の経緯に触れな がら、生態学の「ブラックボックス」である地下(土壌)生態系がいかにおもしろい研究対象であるのか紹介したい。 |