日時:2012年11月20日 16:00-
場所:京都大学農学部総合館W302号室
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高原 光 博士( 京都府立大学生命環境科学研究科 森林植生学研究室 教授) |
約260万年前から現在までの時代である第四紀には,北米や北欧の大陸に氷床(glacier)が発達し,それが拡大・縮小し,寒冷な氷期(glacial age)と温暖な間氷期(interglacial age)を繰り返し,
現在に至っている。このような氷期と間氷期の繰り返しに対応して,陸上の植生は拡大縮小を繰り返してきた。南丹市神吉盆地から得られた60mに及ぶ泥炭を中心とする堆積物には
過去50万年間の氷期・間氷期変動に対する植生変遷が記録されている。この堆積物の花粉分析結果は,氷期の最盛期以外の期間はスギ,コウヤマキ,ヒノキ科などの温帯性針葉樹が優占することを示している。
また,温暖期である間氷期には,必ずしも,常緑広葉樹が増加するわけではなく,温帯性針葉樹が優勢な間氷期も存在した。さらに,完新世についても,温帯性針葉樹が人間活動の活発になる以前には
広く優占していた地域があることが明らかになってきた。たとえば,約1000年前以前には,西日本の日本海側地域ではスギが優占する針葉樹林が拡がっていた(高原,1994)。
内陸域の京都盆地では,常緑広葉樹に,スギ,ヒノキ科,コウヤマキが混生している(佐々木ほか,2011,冨井ほか,2009など)また,太平洋側地域では,常緑広葉樹とスギ,ヒノキ,コウヤマキ,モミなどが
高率で混生(大阪平野(パリノ・サーヴェイ(株),2008,2009,北川,2009,大阪府文化財センター,2009など,))していた。また,木材利用の面からみれば,多くの発掘調査によると,
古墳時代や古代にはヒノキ,コウヤマキなどが建築材料などとして大量に使われてきたことが示されている(島地・伊東,1988,鈴木,2002など)。
以上のような古生態学的あるいは考古学的資料から,特に西日本の暖温帯は,単純に照葉樹林ではなく,温帯性針葉樹と常緑広葉樹が混交する森林であったのではないかと考えている。
また,大住克博氏のセミナー(2012年5月19日)で述べられたように,現在の森林の動態からも,同様のことが指摘されている。
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