日時:2009年12月18日 16:00-
場所:京都大学農学部総合館W302室
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志賀隆氏(大阪市立自然史博物館) |
コウホネ属Nuphar(スイレン科)は抽水〜沈水性の多年生の水生植物である.形
態的な可塑性が大きいことや種間の形態的中間形の存在が指摘され,水生植物の
中でも分類学的な再検討が必要とされてきた属の一つとされてきた.発表者はこ
れまで日本および周辺地域のコウホネ属を対象に,多様な形態変異の実態とその
遺伝的背景,種間交雑の影響を明らかし,分類学的再検討を行うと共に,絶滅危
惧種が多く含まれるコウホネ属の保全を目的とした研究も進めてきた.本発表で
はこれまでの研究結果をもとに,以下の3点に絞って話を進める.
(1)コウホネ属の分類,進化について コウホネ属は属内で多くの自然雑種が報告されており,複雑な雑種形成が分類群 の境界を不明瞭にしている可能性がある.そこで,西日本(コウホネN. japonica,ヒメコウホネN. subintegerrima,オグラコウホネN. oguraensis,中 間形集団),北海道(コウホネ,ネムロコウホネN. pumila,中間形集団)にお いて形態形質,花粉稔性,酵素多型分析やDNA多型を調査した.その結果,異な る分類群が近接する地域では雑種形成が起こり,浸透性交雑が生じてきたことが 明らかになった.この雑種形成により,多様な形態を示す雑種個体群が生じ,分 類学的取り扱いが混乱してきたと考えられる. (2)コウホネ属の種間、種内系統・系統地理 コウホネ属の種間および種内の系統関係と各種の遺伝的多様性を明らかにするた めに,交雑起源と考えられる集団を除くコウホネ属植物について各種DNAマー カーを用いて調査を行った.系統樹を作成すると日本近隣地域のコウホネ属はコ ウホネ,ヒメコウホネ,ネムロコウホネ,オグラコウホネ,シモツケコウホネ N. submersaの5つの単系統群を作った.また,これまで重要視されてきた花や果 実などの器官の赤色化するという形質は各系統において独立に派生してきた形質 であることが明らかになり,この形質によってまとめられてきた種内分類群は多 系統群であることが示された. 種内の系統群に関しては,コウホネでは東日本系統と西日本系統の2系統が識別 され,これらの2系統群は形態的にも異なることから異所的種分化が進んでいる ことが示唆された. (3)コウホネ属の保全について コウホネ属はコウホネを除く全ての種が絶滅危惧種に指定されており,それらの 保全は急務の課題となっている。発表者も関わっている,栃木県固有種であるシ モツケコウホネにおける保全活動と現地状況を紹介し,コウホネ属の保全につい て議論したい. |