過去のスペシャルセミナー情報

日時:2014年12月5日 16:00-
場所:京都大学農学部総合館W306室



冬眠の進化を探る
関島恒夫氏 (新潟大学)
哺乳類における冬眠の魅力は、我々ヒトと同じ恒温動物でありながら、5℃以下まで体温を低下させることができる低体温耐性と、そのような極限の体温低下にも関わらず、細胞・組織レベルで異常をきたさず、生体が正常に機能を果たしている点にある。チョウセンシマリスから発見された冬眠特異的タンパク質(Hibernation-specific Protein: HP)に関する研究は、低体温という特異的な現象の把握に終始してきた冬眠研究を、統合的な生体内高次生理調節システムとして理解する道筋を提供した。
 HPは、N末端部に共通したコラーゲン様の配列を持つ3つの類似した族タンパク質(HP-20, HP-25, HP-27)の複合体に、α1-アンチトリプシンによく似た構造を持つタンパク質(HP-55)が結合した4量体からなるタンパク質複合体で、血漿中では冬眠期に減少して、活動期に増加するという特徴をもつ。HPの研究を通し、冬眠と低体温は必ずしも同義ではなく、チョウセンシマリスの場合には低体温を引き起こすための事前の生理的調節が概念リズムの支配のもと行われており、そのリズムが視床下部?下垂体系を介して冬眠シグナルとなるホルモンを各器官に作用させ、それにより細胞機能の変化を引き起こすことで冬眠を制御していることが明らかとなってきた。一方、冬眠メカニズムを解明するプロセスの中で、本種の中には生涯にわたり冬眠できない個体が存在しており、それらの個体はHPの年周リズムが形成されないという特徴を持つことを見いだした。本セミナーでは、HPを介して明らかになってきた冬眠メカニズムの概要を紹介した上で、HPを切り口に冬眠の進化を探る。