過去のスペシャルセミナー情報

日時:2014年10月31日 16:00-
場所:京都大学農学部総合館W306室



渡るべきか渡らざるべきか:渡りから読み解く琉球列島の小鳥の生物地理
関 伸一 氏 (森林総合研究所・関西支所)
 琉球列島周辺地域の固有鳥類で、アカヒゲという小鳥がいる。私は、そのアカヒゲの研究をライフワークにしている。アカヒゲについては詳しいが、アカヒゲ以外の鳥のことはあまり知らない。というわけで、セミナーの趣旨と若干ズレそうだが、偏屈・鳥類研究者により、アカヒゲからみた琉球列島の生物地理についてお話させていただこうと思う。
 琉球列島は九州と台湾の間に連なる島々で、この地域では海水面変動や地殻変動などの地史的イベントによる陸橋の形成と消失が繰り返されてきた。陸橋の消長とそれに伴う環境変化は生物の移入、集団分化、地域的絶滅をもたらし、陸鳥を含む陸棲生物の分布パターンに強く影響したと考えられる。しかし、鳥類の生息地としての琉球列島のもう一つの特徴は、この地域が主要な渡りの経路上に位置することである。高い移動能力と長距離分散の潜在力を持つ渡り鳥にとっては、琉球列島の島嶼間、あるいは本土との間の地理的な隔離はとりわけ不完全なものだったと考えられる。それにもかかわらず、琉球列島で繁殖する渡り鳥でも集団間で形態や生活史に変異が認められる例は少なくない。アカヒゲを含む近縁種群の系統関係とアカヒゲの集団構造を、mtDNAと形態とに基づいて解析することにより、琉球列島の地史と形態や生活史の変化が集団分化と種分化にどのような影響したかを考察した一連の研究を紹介させていただきたい。