日時:2012年5月25日 16:00-
場所:京都大学農学部総合館S124号室
|
境優氏 (京都大学大学院地球環境学堂) |
森林―渓流生態系では、その境界に様々な生物間相互作用が存在します。しかし、陸上物質を絶えず渓流へ運搬する集水域の水文プロセスと渓流生態系の関係においては、物質循環研究が色濃く、具体的にその関係が渓流の生物相に何をもたらすかは不明点が多いです。例えば、放棄人工林における降雨時の地表流量増大は知られていますが、それが渓流の生物群集へ及ぼす影響はよくわかっていません。私はこのような水文プロセスに関わる林床改変事例の中で特に、近年大きく森林生態系を変貌させたスギ人工林化やニホンジカの増加が、渓流の底生動物群集に及ぼす影響に着目し、京都大学芦生研究林で研究を行なってきました。
その結果、スギ人工林は林床、河床に多量のリターを供給することで、シカ食害下で表土流出を抑制し、渓流のデトリタス食者へ安定的な餌資源を提供することが判明しました。一方、シカによる下層植生の消失は林床の裸地化を招き、表土流出に伴う河床の細粒化を通じて、源流域の河床構造の単一化と底生動物群集の多様性低下を引き起こしていました。また、流速・流量の大きい下流部ではこの影響はまだ明瞭でないものの、今後魚類を含めた森林−渓流生態系にシカ食害が影響を及ぼし得ることを予想しており、この仮説についても紹介します。 ABCプロジェクトの一環として行われた本研究成果を通じて、様々な意見交換ができたら幸いです。 |