日時:2012年4月26日 (金) 16:00-
場所:京都大学北部キャンパス 農学部総合館 W306号教室
|
永野 惇 博士 (JST・さきがけ、京都大学生態学研究センター) |
近年、生物学の様々な分野で基礎的情報として多くのトランスクリプトームデータが収集されている。しかしながら、それらは単純な実験室環境で行われており、実際の野外環境下でどのような要因がトランスクリプトームに影響しているのかは全く知られていない。そこで、我々は、圃場のイネから取得した大量のトランスクリプトームデータと、気象データとを用いた統計モデリングを行った。およそ500時点におけるトランスクリプトームデータを用いた解析の結果、野外環境下でのイネの葉のトランスクリプトーム変動は、大部分が気温と体内時計で説明できることが明らかになった。また、いくつかの環境刺激(気温・日射など)に対する日周性の感度変化(ゲート効果)や、日射に対する応答の閾値と日長測定の精度との関係など、興味深い特徴が明らかになった。これらは、野外環境という文脈で研究することで初めて明らかになったものである。我々のモデルは複雑な野外環境下でのトランスクリプトーム変動の大部分を記述できるだけでなく、任意の環境条件下でのトランスクリプトームの予測にも用いることが出来る。本研究の結果は、これまで研究室で集められた膨大な分子生物学的な知識を、現実の圃場や自然環境下での問題に適用するために役立つと期待される。
また、最近当研究室で確立した低コスト・ハイスループットなRNA-Seq、RAD-Seqシステムに関してもご紹介したい。 Nagano et al., (2012) Cell 151(6): 1358-1369 |