過去のスペシャルセミナー情報

日時: 2021年7月16日(金) 16:00 - 17:30
場所: Zoomを使ってオンラインで開催しました


有性生殖の進化生態学
京極大助 博士(兵庫県立人と自然の博物館)
本セミナーでは、3つの異なる話題を提供する。まず保全遺伝学的な興味から行われた研究をきっかけとして発展した異形花柱性の維持に関する研究を紹介する。異形花柱性はめしべとおしべの高さに見られる種内多型を指す。異形花柱性は他殖を促進する適応だと考えられてきた。しかし絶滅危惧種であるカッコソウの野外での繁殖パタンを調べたところ、短花柱花の花粉と長花柱花のめしべの間で他殖が起きている一方、逆の組み合わせでの他殖は見られなかった。また短花柱花は頻繁に自殖種子を生産していた。これらの結果と、サクラソウ属での異形花柱性の遺伝メカニズムから、異形花柱性の維持が超優性によって説明できる可能性を指摘する。2つ目の話題として、有性生殖をするカンサイタンポポの繁殖生態を調べた研究を紹介する。カンサイタンポポの花序は朝開き夕方までに閉じる。この花序の「行動」が受粉によって誘導されること、受粉する花粉がどの個体に由来するかによって花序が閉じる速度が変わることを紹介する。こうした現象が、花の行動を操作する利己的な花粉の進化を示唆することを指摘する。最後に、有性生殖をすることで多種共存が促進される可能性を示した理論研究を紹介する。有性生殖をする種では、しばしば不適応な交雑などが起きる。こうした不適応を避けるために種認識や棲み分けが進化する可能性がある。昆虫を想定した数理モデルを用いた解析から、種認識よりも棲み分けのほうが観察されやすいと期待されること、その原因が副次的に生じる共存の安定化にあることが明らかとなった。とくに進化動態だけではなく個体群動態を考慮することでこうした現象が生じることを、数式を使わずに紹介する。また発表ではこれらの研究の裏話なども紹介したい。