過去のスペシャルセミナー情報

日時:2008年10月16日 16:00-
場所:京都大学農学部総合館 W306



土壌栄養塩の欠乏に対する樹木の適応と森林生態系の維持機構:
熱帯降雨林におけるリン欠乏の例
北山兼弘(京都大学生態学研究センター)
最近,森林生態系の生物地球化学的な知見が集積し,風化が進んだ土壌に成立する熱帯降雨林ではリンが純一次生産や分解過程を制限している可能性が示唆さ れている.地球化学的なモデルに従えば,地質学的な長い時間の中で,土壌中のリンは可給性の高い有効態の形態(画分)から可給性の低い形態に変化し,それ とともに全量も減少するとされる.このモデルはハワイやニュージーランドで実証され,土壌中でリンの形態が予測通りに変化していることが確かめられてい る.このモデルは,その後,生物地球化学に関心を持つ生態学者の強い興味をひき,森林生態系の土壌リン欠乏への応答を調べるきっかけとなった.もし,火山 噴火などの大きな撹乱による土壌の若返りがなければ,森林の純一次生産は時間と伴にリン欠乏によって低下し,バイオマスも衰退する,との仮説も出されてい る.
私が研究拠点を置いているボルネオ島北部(マレーシア・サバ州)の熱帯降雨林では,土壌を調べると,確かにモデルに従い全リン濃度は低く,難分解性無効 態リンの比率が多いようである.また,樹木の生葉やリターの窒素/リン比が非常に高く,窒素と比べてリンが欠乏する傾向が示されている.しかし,純一次生 産やバイオマスが極端に減少する例は知られていない.土壌リンが欠乏しても森林が見かけの生産やバイオマスを維持するためには,樹木の適応がなければなら ない.いったいどのような適応があるのだろうか?セミナーでは,生産におけるリンの利用効率やリン獲得における樹木の適応の一端を紹介し,森林生態系が長 期的に維持される仕組みについて考察したい.