月に一度、第一線で活躍されている研究者をお招きしてスペシャルセミナーを開催しています。
関心のある方は是非ご参加ください。セミナー終了後には簡単な懇親会も行っております。
日時:2010年4月21日 16:00-
場所:京都大学農学部総合館 W302号室
-QTLマッピングとトランスポゾンによるアプローチ- |
河村耕史氏 (名古屋大学大学院生命農学研究科園芸科学分野 ポスドク研究員) |
バラは世界中で親しまれている園芸植物であり栽培化の歴史も古い.栽培品種の数は
数千にも及んでおり,花の色,形,匂いだけでなく花序の構造や樹形などの形質におい
ても多様であり,園芸学的にも生物学的にも興味深い研究材料である.一方で,他殖性
が強いため,遺伝的に非常に複雑なヘテロの植物であり,また多くの栽培種は倍数性で
あるため,一般的には遺伝学的な研究が困難な材料といえる.しかし,バラでも,近年
急速に普及しつつあるゲノム研究の技術を駆使し,様々な形質を支配する遺伝学的な仕
組みを分子レベルから少しずつ解明しようとする試みが進んでいる.本セミナーではそ
の概要を紹介したい.今回紹介する手法や知見の多くは,野生種を扱う生態学的な研究
にも応用可能である.ゲノム研究の技術を用いて,種分化や適応などの生態学的研究に
どのような新しい貢献ができるのかについても議論したいと思う.セミナーの具体的な
トピックとして,以下の2点を考えている.
(1)バラの花序構造や樹形を決定する遺伝的な仕組みは? 花弁と葉のサイズは遺伝的に相関する形質なのか?について,QTLマッ ピングの手法を使って調べた研究事例を紹介する植物の形は一般に複数の量的遺伝子座 (QTL)に支配された複雑形質である.そのような形質の遺伝的な決定機構を探る方法論 を紹介する. (2)バラにおけるトランスポゾン(TE)を使った遺伝子同定の試みについて,最新の 知見を交えて紹介する. TEとはゲノム上を転移するDNA塩基配列の総称である.TEは,ゲノムに様々な改変を引き 起こす要因となっており,近年では進化の起爆剤としての役割が指摘されている.バラ などの木本の園芸植物では,同一個体内にシュート単位で花の色や形などの形質に遺伝 的な変異が生じる現象「枝変わり」がよく知られている.そして,この枝変わり現象は TEの転移によってもたらされる体細胞突然変異に起因する場合が多い.バラでは非常に 多くの枝変わり品種が登録されており,また,枝変わりが高頻度で起こる品種があるな ど興味深い現象も知られている.このような知見とそれを利用した今後の研究発展の可 能性について述べたい. |