日時:2014年12月19日 16:00-
場所:京都大学農学部総合館W306室
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川北 篤 氏 (京都大学生態学研究センター) |
被子植物は,花粉を同種他個体の雌しべに届けるという一つの目的のために千差万別の花を進化させ,実に多様な関係を花粉媒介者との間に築き上げた。
そのなかでも最も特異というべき例の一つが,送粉者の幼虫の餌として種子を犠牲にする植物で見られる絶対送粉共生である。
例えばクワ科イチジク属やリュウゼツラン科ユッカ属は,花に産卵に訪れるイチジクコバチ,ユッカガの雌によってのみそれぞれ送粉されており,
孵化した幼虫が発達途中の種子の一部を食べて成長する。
近年,こうした絶対送粉共生の新たな例がコミカンソウ科植物とハナホソガ属ガ類の間で発見された。 ハナホソガの雌はコミカンソウ科植物の花に産卵するが,産卵した花が確実に実になるように,産卵に先立って雄花で花粉を集めて雌花へ運ぶという 能動的送粉行動を進化させている。植物と送粉者の種特異性は高く,世界中の熱帯で500種近くのコミカンソウ科植物が, それぞれに特異的な種のハナホソガによって送粉されている。分子系統解析の結果から,ハナホソガ属において約2500万年前に送粉行動が起源して以降, コミカンソウ科ではハナホソガとの共生が少なくとも5度独立に進化していることが分かっている。 コミカンソウ科?ハナホソガ属共生系は多様化が著しく,植物の側でハナホソガとの共生が繰り返し進化していることから, 植物の種多様化に送粉者がどのように関わっているのかを研究するための優れたモデルである。系統群レベルで見ると, ハナホソガ媒の系統はその姉妹群と比べて種多様性が高いことから,送粉様式の違いは植物の種多様性に影響を及ぼすと考えられる。 しかし,植物の種分化過程に目を向けると,植物の種分化が送粉者の分化や送粉者の変更を伴っている例はほとんど見つかっていない。 セミナーでは,ハナホソガ媒の系統における高い種多様性を理解するための新しい考え方を提示し,現在進めている研究について紹介したい。 |