過去のスペシャルセミナー情報

日時:2010年11月19日 16:00-
場所:京都大学農学部総合館 W302号室



日本列島における養菌性キクイムシ(Xylosandrus属)3種の遺伝的構造
伊藤 昌明 氏 (名古屋大学大学院生命農学研究科 研究員)
 養菌性キクイムシは、樹皮下穿孔性キクイムシとともに、キクイムシ類の中で 大きなグループを形成している。養菌性キクイムシは菌類と相利共生関係を発達 させており、それらの共生菌を餌として、絶対的に依存している。近年、生立木 への加害と枯損被害が報告されているが、養菌性キクイムシは基本的に衰弱木や 枯死木に穿入する二次性昆虫である。その加害樹種の範囲は広葉樹を中心として 極めて広く、中には針葉樹も利用する種が存在する。それとは対照的に、樹皮下 穿孔性キクイムシでは、多くの種が針葉樹を中心として、1属のみを利用してい る。そのため、樹皮下穿孔性キクイムシの遺伝的構造は加害樹種の分布構造に強 く依存していることが知られており、種内の遺伝的分化が加害樹種の分布の断片 化に伴う例がしばしばみられている。
 養菌性キクイムシでも、加害樹種の分布が遺伝的構造の形成に大きく関わって いる可能性がある。すなわち、広葉樹のみを利用する種と針葉樹も利用できる種 で、個体群の断片化の生じやすさが異なっていることが推察される。そこで、本 研究では加害樹種数のみが大きく異なっているXylosandrus属の養菌性キクイム シ3種を対象として、日本列島における遺伝的構造を系統地理学的解析によって 明らかにし、その形成要因について検証した。
 本講演では、これらの研究結果について紹介するとともに、養菌性キクイムシ とその共生菌の系統分化および養菌性キクイムシ-菌共生系におけるニッチ分割 の可能性についても紹介したい。